Sponsored Link







「あ、祐一さん。少し時間あるかしら?」
 ある平和な日曜日。出かける用事もなく部屋でのんびり過ごしていると、秋子さんが俺の部屋に入って来た。
「いいですけど……どうかしたんですか?」
「ええ、ちょっと……実は……」
 …………
 ……
「え、マジですか……?」




後継者





 その日の3時。俺の部屋には心の底から珍しい組み合わせの人物がいた。
 ……香里とあゆだ。
「ねえ祐一君。ボクをわざわざ呼んでくれたのは嬉しいけど、どうしたの?」
 確かに商店街を走り回って、あゆを見つけた瞬間そのまま連れ去った、というのは不自然だったかもしれない。
「と、いうか……この子だれ?」
 香里も似たような感じで連れて来たはずだが、落ち着いているのはキャラが違うからだろうか?

 3時2分。説明アーンド自己紹介終了。

「うぐぅ、『この子』……」
 同い歳なのに、とショックをうけているあゆはほっとくとして……。
「で、このメンバーを集めたのには理由があるんだ……」
「それは分かるわ。初対面の月宮さんとあたしを集めた意味は何?」
 いきなり核心を突かれた。
 うぐぅ、と言いたいがここでチームワークを無くすとどうにもならないので言わないでおこう。
「聞いたら香里とあゆの運命が変わってしまうかもしれないぞ」
「いいわ……それでも」
「……ボク、よくわからないけど……覚悟したよ!」
「よし。じゃあ教えるぞ……」
 …………
 ……


「ただいまーってあれ……?」
(……まだだ。まだ早い。)
「この靴……香里?それにあゆちゃんも……」
(うぐぅ……この体勢疲れるよ……)
(頑張るのよ月宮さん。あたしたちの未来のためなんだから……)
 とことことこ…………。
(今だ!! 行くぞ!!!)
((うん!!))



「「「ハイル、なゆっきー(さん)!!!!!!」」」




「…………」





 廊下の空気が凍った。
 ちなみになゆっきーとは作者の妹の名雪の呼び方である。

「どうしたの……? 3人とも……」
 名雪はきょとんとこっちを見ている。  普通の人ならココは引くべきところだと思うのは俺だけか?
 まあ……名雪ももうすぐ俺達がやったことの意味がわかるだろう……。
「あら、名雪。やっと帰って来たのね」
「あ、お母さんただいま〜」
 ……来るべき時は来た。
 それを感じているのは俺だけじゃないはずだ。
「名雪。お母さん、ちょっと渡したいものがあるのよ」

 寂しそうだけど嬉しそうな顔で秋子さんはエプロンのポケットを探った。


 ゴソゴソゴソ……。


「これは今日からあなたのものよ」


 ……中身はもう大体の人が想像がついてるだろうけど一応言っておこう。

 謎ぢゃむのレシピだ。

「……これを、私がもらうの?」
 秋子さんはゆっくり頷いてにっこり笑ったあと、台所に戻っていった。

 俺達3人の共通点。
 それはすなわち、『過去に謎ぢゃむを食べた事がある』だ。
 継承される人物、名雪のご機嫌をとるために必死になっていたわけだ。
「……失敗だったか?」
 名雪は中を見てなぜか嬉しそうに笑っているように見える。
「祐一君のせいだよっ!!」
「相沢君。責任取ってくれる?」
「いまさら仲間割れはよそう。もうこうなったら運命共同体だ」
「「だれがっ!!」」
 しかし……名雪もこのジャムは食べた事があるはずだ。
 痛みを知ってる人はそれを相手にやらないってよく道徳で言うし……。
「今度から嘘ついたらこれだね」

 ……逆だった。
 秋子さんはこれを『恐いもの』とは思っていなかった。
 だが名雪はこれの恐ろしさを知っている。
(だからたぶん脅迫にでも使うんだろうな)
「これ食べたくなかったらイチゴサンデー奢って、とか言えるかな?」
 ……やっぱりか。
「約束破ったらイチゴサンデーでも許さない上にこのジャムを無理矢理一気飲みさせるとか……」
 それは拷問という物では無いかと思う。
 そこまでするような約束に今の所心当たりはないが……。
(しかしそのうち試しに作って俺達に食わせようとするんじゃないか? 名雪の奴。)
 恐ろしい事を考えてしまった。
 横を見るとあゆも香里も同じ事を同時に思い浮かべてしまったらしい。
 …………
「ボク、探し物あるからもういくねっ!!」
 やはり最初にあゆが逃げようとした。
 だが俺は逃げられないのであゆ一人逃がすつもりは全く無い。
「今じゃなくていいんじゃないのか? また今度俺が手伝ってやるから」
「あきらめなさい、月宮さん」
「うぐぅ〜」
 ストン、とあきらめて座る。
 そして15秒後ポンと手を叩いたと思ったらまた立ち上がった。
「あ、そろそろ街にもどらなきゃ! ボクもうこの街には来ないと思うんだ! じゃあね!!」
「探し物はどうするんだ?」
 15秒の考えはあっと言う間に潰せた。
 まあ、本来探し物が見つかった時に言うセリフだしな。
「うぐぅ〜!! ボクの事忘れてくださいっ!!」
 一瞬の間だったため謎のセリフを放つあゆ。
 ここでまたツッコミを入れるのは簡単だが……。
「忘れないよ。俺は、絶対に」
「え……?」
 俺は真剣にあゆの目を見つめる。
「約束したからな。俺は絶対覚えてるって。だから忘れない」
「祐一、君……?」
「はい、そこでストップ」
 二人の世界を香里が邪魔する。
 しかし俺とあゆの間に割っていれた旗の文字が『あゆED見た人にしかわからないね☆』だったのは何なんだろう。
「なんでそこで急に二人の世界に入ってるのよ……」
「いや、天から『そこでラブラブな所を見せつけろ!』って声が聞こえたから……」
 ついでに今『とめんなカオリン!』というツッコミも頭に入って来たが香里には秘密だ。
 あいかわらず名雪は一人で妄想の世界に入っている。
 俺はこの家から逃げる事が出来ないので、とりあえずずっと立っていた。
「あ! そうだ!」
 今度は香里が手を叩いた。どんな言い訳だろうと逃がす物かっ!!
「あたし、妹が待ってるから。じゃ……」
「お前に妹はいないんじゃなかったのか?」
 自らの過去の言葉のせいで逃げる事が出来なくなるとは……惨めだな香里。
 ちなみに栞は元気に自宅療養中である。
「ねえ! 教えてよ相沢君!! あたし、どうしてであのジャムを食べなきゃいけないのっ!?」
「名雪の友達だからだろ」
 さらっと言い返せた。香里ってこんなに口弱かったっけ?
 まあ、精神的に安定していないから、と言われても納得できるが。
「わたし、もう笑えないよ。笑えなくなっちゃたよ……」
「「「名ゼリフを言えば良いってもんじゃないっ!!」」」
 3人で名雪に突っ込む。っていうかいつのまにこっちの世界に戻ってたんだ?
「それでね、3人とも。このジャム、食べてくれるかな?」
 来た……。
 俺達は覚悟を決めようとした。
 が、決められなかった。
 恐かった。
 いままでの人生で2番目につらい事かもしれない。
 俺達の中を「夜鍋をして手袋を編んでくれる人」が通った。
 すなわち おかん(悪寒)である。
 こんなのしか思い付かない。
 これは精神的に追いつめられてるからだ。
 もう、おしまいなのか……。
「じゃあ、作ってくるね。」
 そう言い名雪は台所に入る。
 足がすくんで逃げられない。
 いや……逃げても追ってくる。
 そういう目をしていた、今のあいつは。
「……しょうがない。奇跡を信じよう」
「……奇跡?」
「作る人が変わると味も変わる。きっと美味しくなると信じよう…」
「……奇跡なんて、そう簡単に起こる物じゃないのよ」
「これ以上不安になりたいのか?」
「ボク、信じるよ。きっと奇跡は起こるよ!」
「ああ……起こるといいな」
















「お待たせ、みんな」














 そうさ、俺だって、起こらないから奇跡って言うことくらい知ってたさ。
 でもな、信じる事は生きていく中で重要な事だろう?
 おけらだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ。
 俺達だって生きている、生きているから信じた。それだけのことだ。


 だから、最後に一言だけ言わせてくれ。

 ……信じなければ奇跡は起こらない。でも信じたからって奇跡が起こるとは限らない。







TOP  SSINDEX